外国人労働者を取り巻く状況
日本の外国人労働者の数は年々と増加していて、2019年には約150万人となっています。日本での少子高齢化から労働者人口の減少により、外国人労働者なくして日本経済は成り立たなくなってきました。しかしながら、外国人労働者を都合よく使い捨てにしてる企業の実態も浮かび上がってきました。
外食チェーンやコンビニエンスストアなどのサービス業で外国人の店員をよく目にすると思いますが、アルバイトしている外国人の多くは留学生です。日本では、これまで、サービス業での就労を目的とした外国人労働者の在留を許可していませんでした。サービス業の分野では日本人のアルバイトをなかなか確保できない状況のため、サービス業は留学生のアルバイトに頼らざるをえない状況です。
農作業、水産加工の工場労働者など、いわゆる肉体労働をしている技能実習生も増えてきています。こうした給料が安くて辛い仕事は日本人に敬遠され、人手不足が深刻です。しかし、単純労働では、在留資格が認められないため、技能実習制度を使って外国人労働者を確保しています。
技能実習生を必要とする企業の中には、日本人よりも安い労働力として、外国人を採用していることもあるのが実情です。技能実習生を安い賃金と、劣悪な労働環境で奴隷のような扱いで酷使することが社会問題となっています。
外国人技能実習生とは?
外国人技能実習制度は途上国の人材を一定期間日本で受け入れ、技術や知識を学んでもらい、本国の発展に生かしてもらうことを本来の目的としています。
技能実習生の送出国は、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイの順番で多いです。
しかし、実態として、多くの技能実習生が、農業、建設業、水産加工業、製造業などの日本人が集まりにくい職種で、安価で辛い肉体労働に従事しています。
その結果、実習生は都合のよい使い捨ての奴隷扱いとしてしまう労働問題が発生しました。安くて辛い労働環境に耐えられず、帰国する期限の前に職場から逃げ出す外国人が多く発生し、不法滞在が増えていることも問題となっています。
この記事では、技能実習生を取りまく問題について取り上げて解説していきたいと思います。
技能実習生の実態と問題
長時間労働
どの業種でも技能実習生の長時間労働が多いことが指摘されています。長時間労働をしていてもタイムカードなどで適切な時間管理をしていない事業者もあり、証明は容易ではありません。
実態が発覚しても、記録がない場合には、長時間労働を証明することができないため、後から賃金を請求することもままなりません。技能実習生が自ら出退勤を記録しておくことで長時間労働を証明するしかありません。
労働基準法による取り決めで、労働契約を結ぶ際に労働時間や一日の休憩時間、休日などを規定するのが一般的です。
農業、畜産と言った自然を相手にする業種は、この労働時間規制にそぐわないということで、適用除外業種となっています。このため、技能実習でも、一日8時間以上の労働をさせても時間外賃金を支払わなくてもよく、農業では労働基準法違反となりませんでした。
そのため、農業についての外国人技能実習生への残業代未払いの長時間労働も社会問題となりました。現在では、農林水産省の通知により、農業分野において、外国人技能実習生を雇用する場合は労働基準法の労働時間規制に準拠することとされ、労働契約で時間外賃金が定められるようになっています。
賃金・残業代・手当の未払い
技能実習生の賃金について、今は売り上げがないため、お金があるときに払うと事業者に言わるなどして、実際には支払われないことがあります。残業代や有給休暇などがあることを技能実習生に知らせないこともあるようです。
従業員が外国人技能実習生であっても、労働基準法に則って、法定労働時間を超えて労働させた場合や休日に労働させた場合には割増賃金を支払う必要があります。
また、その場合は、あらかじめ36協定を作成、締結して、労働基準監督署に届け出ないといけません。
いじめ・パワハラ・セクハラ・暴力
職場では、技能実習生に対して日本人によるいじめ、パワハラが横行しています。
例えば、外国人が嫌いだと差別的な発言をしたり、◯◯人は汚いと偏見的な発言を相手に対してしたりします。
さらに、技能実習生に対しては事業者がお尻を触るなどのセクハラ、殴るなどの暴力などの人権侵害も相次いでいます。技能実習生の旅券や在留カードを無理やり取り上げて管理してしまうことも人権の侵害です。
在留資格更新との関係
日本に滞在するのに在留資格が必要な外国人にとって、在留資格の更新は一大事です。そして、就労や技能実習のために来日している外国人労働者は、通常、雇用主の協力がなければ在留資格の更新ができません。その弱みにつけこんで、例えば、今までの給料よりも安い賃金の契約書にサインさせるなどの脅迫をする悪質な雇用主もあるようです。
労災隠し・強制帰国
技能実習生が仕事中に怪我や骨折をした場合に、労災隠しをする会社もあります。体が壊れたら日本では治療させずに、帰国用の費用を渡して強制的に帰国させます。もともと数年で帰ってしまう技能実習生は短期間で都合の良い使い捨ての人材という発想があるのかもしれません。
反抗しそうな実習生について、給与からあらかじめ天引きして強制的に貯金しておいて、タイミングをみて、積み立てた費用で航空券を買い、強制帰国させるケースもあると報告されています。
技能実習生は帰国のことは知らされず、荷物も持たされず、行き先も告げられないで、だまされて空港まで連れて行かれるケースまであるのです。
契約書がない
技能実習生を雇い入れるには契約書を作成する必要がありますが、これを実習生に渡さずに契約書とは異なる労働条件で働かせる例があります。
例えば、給料については口頭で「1ヶ月〇〇円」などと言われるだけです。労働時間については、初日に◯時に来るように言われ、退社時間の規定もなく、帰ってもいいと言われるまで働き続け、これが固定化していきます。
残業割増、有給休暇など他の労働条件については一言も触れないため、何もないと思ってしまいます。長時間労働で給料も最低賃金を割るようなこともあります。
契約書を守らない
契約書が存在しても、契約書が守られないことがあります。
・契約書に必要事項が定められていない。
・欠勤や遅刻の減額が異常に多い。
・家賃の控除分の取り決めがない。
・契約書が法務省入国管理局(入管)の提出用で、実際の金額は口頭で伝え、契約書より低い賃金を支払う。
・契約書を守っていても、日本語だけで書かれた不当な契約書に内容もわからずサインさせる。
技能実習生に対してこうした不正な行為を行う事業者もいます。
技能実習生を縛る高額な渡航前費用と保証金
実習生は、来日前に本国の送り出し機関(仲介会社)に対し、実習生の本国の物価からすれば多額の渡航前費用を支払うことが当たり前になっています。渡航前費用には、ビザやパスポートなどの各種の関連手続き費用、飛行機料金といったものだけではなく、仲介会社への「手数料」が含まれているのです。
また、場合によっては保証金を預けることもあります。
保証金とは、日本で働いている間、期限までに逃げ出さずに勤務することを約束するお金です。一定の金額を仲介会社に預け、実習生としての契約期間を満了すれば、帰国後に返却されます。金額は100万円前後と、実習生の本国の水準からするとかなりの高額になることもあります。
日本での収入は期待ほど多くないため、来日後しばらくは給料を借金返済にあて、貯金ができるのはそれ以降となります。渡航前費用があまりに高額だったり、日本での収入が低いケースでは、借金返済の期間が長期化してしまいます。
実習生には、農村出身者が多く、渡航前費用等を銀行から借金をする場合は、実家の土地を担保にすることもあるようです。借金が返せない場合は、担保の土地使用権がとられてしまうことになります。農民家族が土地を失えば、世帯の経済状況は一気に悪化し、実習生とその家族の暮らしは破たんしてしまいます。
これらの金銭的な負担が実習生を厳しい労働環境に縛りつけているのです。
例えば、国家統計局国際労働機関(ILO)の調べによると、フィリピンの平均年収は、約48万円(約23万ペソ)となります。あくまでも平均なので、もっと低い賃金で働く人たちも大勢います。このような国の人たちが多額な借金を負って技能実習生として来日しているのです。
技能実習生の失踪
これまで説明してきたような労働環境で、技能実習生の失踪も相次いでいるため、社会問題となっています。
法務省が発表した『平成29年に外国人の研修・技能実習の適正な実施を妨げる「不正行為」について』によると、2013年から2017年までに延べ2万6千人が失踪しています。失踪する技能実習生の人数は、年々増加しており、2012年には2,005人だったものが、2016年には5,058人と倍増、さらに2017年には7,089人となり、かなりの人数に上ることがわかります。
外国人技能実習生の失踪問題に関する法務省の調査結果によると、実習先から失踪した外国人技能実習生のうち、7割弱が動機として「低賃金」を挙げています。月給についても半数以上が「10万円以下」となっているためです。「10万円超~15万円以下」が9割以上を占めています。最低賃金を下回っていることもあります。
また「指導が厳しい」が12.6%、「労働時間が長い」が7.1%、「暴力を受けた」が4.9%などとなっていることから、待遇の悪さや劣悪な労働環境が実習生の失踪につながっていることがわかります。
技能実習生の犯罪
技能実習生の中には犯罪に関わってしまうケースもあります。技能実習の摘発内容別では、期間を越えて国内に居続ける「不法残留」や実習以外の別の仕事をする「資格外活動」などの入管難民法違反が最多となっています。
検挙件数のうち、圧倒的に多いのは空き巣や万引きなどの窃盗であり、これには低賃金など、実習生が経済的に困窮しているという背景があります。
在留資格の取消し制度の強化
在留資格の取消し制度とは、日本に在留する外国人が仕事を退職した場合に、3ヶ月以内に次の仕事を見つけないと在留資格を取り消し帰国させる制度です。
もともと、在留期間がある間は在留資格が取り消されることはありませんでした。
2004年に在留資格取消し制度が新設され、在留資格に応じた活動を3ヶ月以上行っていない場合に在留資格の取消しが可能となりました。
2015年に入管改正法で偽装滞在者対策が改正し強化されます。
新しい入管法改正の制度は、3ヶ月経たない場合においても「在留資格に係る活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している場合」に在留資格を取り消すことが可能になりました。
技能実習生などが職場から逃亡することにより、不法滞在者も増加しました。不法滞在者の犯罪についても社会問題となっています。
そのため、入管改正法が強化されましたが、外国人労働者にとっては現在の仕事を辞めにくい状態となってしまいました。
※制度の詳細は出入国在留管理庁のホームページ「在留資格の取消し(入管法第22条の4)」参照。
技能実習生への不正行為の件数
これまで取り上げた技能実習生の労働問題が全てではなく、他にも数多くの問題を引き起こした不正な行為は存在します。2015年に370件、2016年に383件、2017年には299件の企業や監理団体が不正を行い摘発されています。
類型 | 件数 |
賃金等の不払 | 139 |
契約書、偽変造文書等の行使・提供 | 73 |
労働関係法規違反 | 24 |
不法就労者の雇用・あっせん | 18 |
研修・技能実習計画とのそご | 10 |
名義貸し | 10 |
問題事例の未報告等 | 8 |
暴行・脅迫・監禁 | 4 |
人権を著しく侵害する行為 | 3 |
保証金の徴収等 | 3 |
講習期間中の業務の従事 | 3 |
旅券・在留カードの取上げ | 2 |
再度の不正行為 | 1 |
二重契約 | 1 |
※法務省の「技能実習制度の現状」を参照
まとめ
・少子高齢化により日本人の労働人口は減少しているため、外国人労働者の受け入れ数は年々と増加している。
・技能実習生とは開発途上国の労働者を一定期間日本で受け入れ、技術や知識を学んでもらい、本国の発展に生かしてもらうことを目的としている。
・技能実習生の受け入れについては多くの労働問題が発生している。
外国人労働者に対する人権侵害は、技能実習生の受入停止処分など、結局は事業者に跳ね返ってきます。人権に敏感な企業や消費者は、人権問題を起こした事業者と取引をしなくなる恐れもあります。また、このような問題がいつまでもなくならないと、就労先として日本を選ぶ人が減ってしまうかもしれません。外国人労働者は、もともと弱い立場に置かれがちです。外国人技能実習生の採用について検討されている方も、これらの労働問題が起きていることを踏まえて健全な受け入れを心がけていきましょう。