技能実習制度

技能実習制度の適正な制度活用には、不正行為について事前に理解をしておく事が必要です。そのため、法務省が第1~6の類型に分類している主な技能実習制度の不正行為について「書類のそご」「所定時間外の作業」「悪質な人権侵害行為」「不正行為の未報告」「就労関係の違法行為」「不正行為の再発」などを解説していきます。

書類の齟齬(第1類型)

受入れ機関は、技能実習の内容について、技能実習計画などの書類を提出し、その計画に従って研修・技能実習を実施しなければなりません。また、第一次受入れ機関は、第二次受入れ機関に対し監査を行って、その結果を報告します。

地方出入国在留管理局などに提出した書類の内容と実際に行われた技能実習との間に違いがある研修や技能実習を行ってはいけません。

「不正行為」を行ったと認定された機関は、技能実習告示などの規定に従い、技能実習生の受入れが3年間停止され、罪に問われるおそれがあります。

二重契約

在留資格認定証明書の交付申請などで提出された書面上の金額と異なる合意が存在してはいけません。

例えば、出入国在留管理局へは給与を月額で定めたとして申請しながら、受入れ機関と実習生との間に、作業の出来高に応じて支払い額を決定する合意がある場合が当てはまります。
他にも、技能実習生の雇用契約を同様に、提出された雇用契約書に記載された報酬より低い報酬を実際には支払うことの別の合意がある場合も当てはまります。

技能実習計画と違う内容

提出された技能実習計画、雇用契約の内容と違う技能実習を行なってはいけません。

例えば、申請では、食品加工機の取扱いなどを内容とする「食品加工」の技能実習を行うとしながら、実際はそれらの作業を行わず「容器への盛りつけ」のみを行わせるなど、行うとした作業とは別の作業に従事させた場合が当てはまります。

名義貸し

申請上の受入れ機関では技能実習生を受け入れず、他の機関が技能実習生を受け入れるということをしてはいけません。

例えば、実体のない会社を受入れ機関とした申請を行って技能実習生を入国させて、別の会社で受け入れていた場合が該当します。名義貸しにより「不正行為」に認定される機関は比較的多く、軽い気持ちで他の機関に技能実習生を手伝いに出したとしても、「不正行為」に問われることとなりますので、注意してください。

虚偽文書の作成・行使

実習実施機関、監理団体は、外国人に上陸許可の証印などを受けさせる目的、または不正行為に関する事実を隠ぺいする目的で、偽造・変造された文書・図面、虚偽の文書・図面を行使、提供してはいけません。
例えば、地方出入国在留管理局への申請で、実習実施機関の常勤職員数を実際より多く偽った内容の書面を作成するなどをしてはいけません。

所定時間外の作業(第2類型)

技能実習生に、一般の労働者のように所定時間外、休日等に作業を行わせるなど、研修計画に記載されていない作業をさせてはいけません。技能実習生は、技術等を学ぶ者であって、留学生などと同じような立場にあります。したがって、一般の労働者が残業をしたり、休日出勤をするのと同じような活動を行うことはできません。

例えば、研修実施日を月曜日から金曜日まで、研修実施時間を9時から17時として申請して許可を得ながら、実際には、土曜、日曜に作業を行わせたり、17時以降や早朝から作業を行わせてはいけません。

悪質な人権侵害行為(第3類型)

研修・技能実習で、研修生や技能実習生の人権を侵害するようなことは、あってはならないことです。それにもかかわらず、一部の受入れ機関では人権侵害の問題が生じていることが指摘されています。

暴行・脅迫・監禁

実習監理者が、暴行、脅迫、監禁などの手段によって、技能実習生の意思に反対した技能実習を強制することは禁止されています。

違約金の請求

技能実習生との間で違約金を含めた契約をすることは、実習実施者における業務従事の強制などの問題を引き起こし、技能実習生の自由意思に反した人権侵害行為の問題を引き起こすおそれがあり、このような行為から技能実習生を保護することが必要とされています。

このため、実習監理者が、技能実習生との間で、技能実習での契約の違約金を決めて、損害賠償を予定する契約をすることは禁止されています。

強制的な貯金

実習監理者は、技能実習の契約で、貯金の管理の契約をさせてはいけません。

旅券・在留カードの取上げ

技能実習関係者は、技能実習生の旅券・在留カードを保管してはいけません。技能実習生の旅券・在留カードを取り上げることは、人権侵害行為であり、こうした行為から技能実習生を保護することが必要とされています。

外出の制限

技能実習関係者は、技能実習生の外出や、私生活の自由を不当に制限することを禁止しています。具体的には、技能実習生に対し、解雇、労働での不利益、制裁金の徴収などもしてはいけません。また、財産の不利益を示して、労働時間以外での他の人との通信、面談、外出を禁止することを告知してはいけません。

研修手当・賃金等の不払い

実習実施機関、監理団体は、技能実習生に対する手当、報酬を支払わなくてはいけません。

人権を著しく侵害する行為

技能実習生に対し悪質な人権侵害行為を行ったり、研修・技能実習制度に対する信頼に重大な影響を与えてはいけません。
技能実習生から人権侵害の被害を受けたとの申告で、事実が認められた場合は人権侵害となります。

不正行為の未報告(第4類型)

報告義務違反

研修生や技能実習生の失踪などの問題事例が発生した事実を、地方出入国在留管理局などに対して届け出しなくてはいけません。

例えば、技能実習生が失踪したのにもかかわらず、これを届け出ることなく、失踪した技能実習生が摘発されるなどして初めて、失踪していたことが地方出入国在留管理局等に明らかになった場合が当てはまります。

監査未実施

第一次の受入れ機関が研修告示で定められた監査報告を怠ってはいけません。

失踪者の多発

直近の失踪者の発生の昨年に受け入れた技能実習生が50人以上の機関については、20%以上の技能実習生を失踪させてはいけません。

また、昨年に受け入れた技能実習生が50人未満である機関については、10人以上の技能実習生が失踪した場合、あるいは、失踪者が10人未満であっても、その失踪者数が受け入れた技能実習生の半数を超えてはいけません。

例えば、技能実習生を50名受け入れていた機関から、1年間に10名が失踪した場合や、技能実習生を10名受け入れていた機関から6名が失踪した場合は失踪者が多発していると判断され、重大な問題になります。

就労関係の違法行為(第5類型)

技能実習を適正に実施するためには、実習実施機関が労働関係の法規を遵守しなければいけません。

不法就労者の雇用

実習実施機関では、不法就労者を雇用してはいけません。不法就労外国人を雇用することは、それ自体、刑罰の対象となる行為です。

労働関係法規違反

実習実施機関では、技能実習生の労働関係法規の違反があってはいけません。

例えば、技能実習生に対し所定の割増賃金を支払っていなかったり、支払った報酬が最低賃金に満たないとして、労働基準監督機関から是正勧告を受けた場合が当てはまります。

外国人の就労の不正な行為

実習実施機関などが、不法就労者の雇用をあっせんしたり、不法就労活動を容易にするなどの外国人の就労に係る不正な行為を行ってはいけません。

不正行為の再発(第6類型)

不正行為を行った後、改善策を提出し、改善が認められて研修生や技能実習生の受入れを再開して約3年以内に、不正行為を再発生させてはいけません。

例えば、傘下機関が不正行為となった後、別の傘下機関が不正行為を行い、再度、監理責任を問われる場合が当てはまります。

その他の不正行為

保証金の徴収

実習実施機関、監理団体は、技能実習生やその家族から、保証金を徴収するなどしてその財産を管理したり、違約金を定めるなど不当に財産を移転する契約を締結してはいけません。

講習期間中の仕事

実習実施機関、監理団体は、入国1ヶ月目の組合による講習期間中に業務に従事させてはいけません。

営利目的の仲介行為

営利を目的とする仲介機関は、技能実習に関して仲介を行ってはいけません。監理団体などは、技能実習に関して収益を得て仲介も行ってはいけません。

例えば、株式会社が技能実習に関する職業紹介を行っていた場合、公益法人が実費を超える手数料を徴収して職業紹介を行っていた場合が当てはまります。

日誌等の作成などの不履行

実習実施機関・監理団体は技能実習の実施状況・技能実習指導の文書の作成、保存を怠ってはいけません。
地方入国管理局の実態調査等のときに文書を確認できない場合には、適正に保存がなされていることにはなりません。文書は紙でなく、電磁的方法(ワードファイルなど)でも問題ありません。

技能実習の実施状況の文書
・講習日誌
・技能実習日誌
・賃金台帳
・その他の実習内容、指導者、従事時間、賃金について記載した文書

技能実習指導の文書
・団体要件省令第1条第8号に定める、監理団体による1月につき1回以上の訪問指導のときに作成する文書

帰国報告の不履行

監理団体は、技能実習生の技能実習活動終了後の帰国に関して、地方入国管理局への報告を怠ってはいけません。

不正行為に当たると判断された場合の措置

不正行為に当たると判断された場合は、基準省令第8号、技能実習告示第1第3項第5号に適合しないこととなり、上記で述べてきたような、不正行為を行った機関は、3年間、研修生・技能実習生の受入れを行うことができません。

在留する技能実習生に対する措置

受入れ機関、実習実施機関が不正行為に認定された場合は、技能実習生本人に責がなく、引き続き技能実習を行うことを希望し、適正な技能実習を実施する体制を有していると認められる他の機関に受け入れらたり、雇用されるときは、引き続き在留が認められています。

また、技能実習生本人にも責があったときや、適正な技能実習を実施する体制を有していると認められる他の機関に受け入れられなかったり、雇用されなかったときは、技能実習生は帰国しなければなりません。

不正行為の認定を受けた機関は、現に受け入れている技能実習生を帰国させるとともに、帰国後、地方入国管理局などに対し報告を行います。
技能実習生が、帰国しないまま「在留期間更新許可」「在留資格変更許可」などの申請を行ったとしても、更新や変更を許可するに足りる「相当の理由」がないとして、申請は不許可となってしまいます。

なお、技能実習生が帰国するときは、労働関係法規にのっとって賃金の精算等の手続きを行う必要もあります。

不正行為の通報・申告

技能実習生に関しては、実習実施者の不正行為や法違反などについて、主務大臣に申告ができます。技能実習生が、技能実習法令に違反する行為に遭遇した際に、実習実施者・監理団体などの不法行為を申告することができれば、主務大臣の権限によって、不法行為を正すことができ、技能実習生の保護が可能です。

この申告については、外国人技能実習機構(OTIT)が実施する母国語による相談窓口(電話、メール)を通じて行うこともできます。入国後講習において、法的保護に必要な情報について講習するときに、技能実習生に対して確実に周知することが必要です。申告の制度については、入国時に技能実習生に配付する技能実習生手帳にも記載することとしています。

また、実習実施者、監理団体などが、技能実習生が申告をしたことを理由として技能実習の中止や不利益な取扱いをすることは禁止されています。

※厚生労働省ホームページ「技能実習生の保護」を参照

※法務省ホームページ 「研修より参照生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」を参照

まとめ

技能実習制度を利用するときは、「不正行為」をしないように、注意しながら制度を活用していきましょう。

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執筆者
外国人労働者ドットコム編集部

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