外国人労働者の先進的な受け入れ企業の取組事例とは?
日本の労働者の人手不足により、外国人労働者の受け入れ企業が増加してきています。
外国人労働者の受け入れ企業の中で、「建設業」「造船業」「農業」における、6社の先進的な取組事例を見ていきたいと思います。
建設業の企業の取組事例
1社目:建築業の受け入れ企業
・本社所在地:東京都
・許可業種:建築・土木工事業など
・売上高:315億円(平成30年度)
・外国人就労者の受け入れ開始:平成28年度より
・外国人就労者の受け入れ数:就労者4人、技能実習生36人を受け入れ
受け入れ企業の取組とは?
・日本での経験が浅い技能実習生について、現場での指示に対する理解不足が生じないよう、組織編制を「1号または2号技能実習生+3号技能実習生または外国人建設就労者+日本人指導者」とし、先輩の技能実習生等が意思疎通をフォローできるようにしています。
・寮では、ベトナム人による運営委員会が月1回開催され、生活しやすい環境整備を自ら協議。この結果に対し、会社が支援しています。(食事内容の見直し、近隣清掃、日本語勉強会、イベント開催など)
・春・秋のバスツアーやバーベキュー、忘年会、お正月の時期に合わせた新年会、尼さんによる説法などのイベントを開催し、コミュニケーションの活性化や互いの文化理解の促進をしています。
受け入れ企業による外国人労働者受入制度の評価
・技能実習生の中には優秀で熱心な者もあり、技能実習時に身に付けた技能や日本語を、引き続き日本の建設現場で発揮してもらえる機会があることは良いと評価しています。
・建設技能者については、数年で一人前になることが困難であるという実態を踏まえると、技能実習生として来日した外国人にとっても、母国へ帰国するまでにより高い水準の技能を身に付けられるチャンスがあるという点で歓迎されています。
受け入れ企業におけるキャリアパスの例
・4ヶ月間 母国ベトナムで語学及び技能の基礎研修を受講(技能実習生としての来日前)
・1ヶ月間 国内で法定の研修(日本語、生活一般、労働関係法令等)
・1ヶ月後 技能実習生として型枠工事作業に従事
・3年後 外国人建設就労者(在留資格:特定活動)に在留資格を変更、引き続き型枠工事に従事
・4年後 現場の班長として、5人程度の若手を指導監督
就労者の実例
ベトナム人男性(29歳)
・外国人建設就労者としての2年経験
・保有資格:技能検定基礎2級、玉掛け技能講習、丸のこ等取扱作業従事者安全衛生教育など
・日本語検定:N2級
・高い技能を有し、現場で作業チームのリーダーを担当
・職長の指示を技能実習生に説明するほか、寮において日本語教室の講師の役割も果たす
ベトナム人男性(29歳)の声「来日時は外国語を使っての仕事は非常に困難でしたが、諦めずに日本語を勉強し続けてきました。身につけた技能を活かし引き続き日本で働きたいです。将来的にはベトナムの経済発展に役に立ちたいと考えています」
給与体系の例
・技能実習生1年目 約16.7万円
↓
・外国人建設就労者1年目 約19.2万円(資格取得、勤務態度等に対する評価含む)
↓
・外国人建設就労者2年目 約19.4万円
2社目:工事業の受け入れ企業
・本社所在地:千葉県
・許可業種:大工、とび・土工工事業
・売上高:2億円(平成29年度)
・外国人材の受け入れ開始:平成24年度より
・外国人就労者の受け入れ数:外国人建設就労者4人、技能実習生8人
受け入れ企業の取組とは?
・社内では、技能実習生や外国人建設就労者などの外国籍の人材も、日本人と対等な関係であるべきという基本概念をベースにし、互いに協力しながら同じ仕事にあたる同僚であるという考え方をもつよう、共に努力しています。
・仕事で頻繁に使用する単語について、ひらがな、ローマ字、英語による表記のリストを作成し、定着のためのテストを繰り返し実施しています。
・地域行事やボランティアを通じて、日本の風習や地域住民との相互理解を深めるきっかけとしています。
受け入れ企業の外国人建設就労者受入制度の評価
・外国人建設就労者受け入れ制度によって、優秀な人材に成長した技能実習修了者と、より長い期間共に働けることは、教える側にとっても、教わる側にとっても技術向上へのモチベーションが高くなっています。また、人材不足が激化するこの業界においては、同僚が増える唯一の望みと安心する職長もいます。
受け入れ企業におけるキャリアパスの例
・1ヶ月間 母国フィリピンで語学及び技能の基礎研修を受講(技能実習生としての来日前)
・1ヶ月間 国内で、日本語・日本の風習・生活様式(特にゴミの分別)等の研修
・2ヶ月後 技能実習生として型枠工事の組立・解体作業に従事
・3年5ヶ月後 外国人建設就労者(在留資格:特定活動)に在留資格を変更、引き続き同作業に従事
・3年8ヶ月後 現場のサブとして、4人程度の若手を指導
就労者の実例
フィリピン人男性(30歳)
・外国人建設就労者として2年経験
・保有資格:職長・アーク溶接・低圧電流・研削砥石・丸のこ
・日本語検定:N3級
・鋼製型枠を組立・取付・解体する業務に従事
・同等の実務経験を有する日本人技能者よりも、高い技術力を有し、職長のサブとして現場をまとめている
フィリピン人男性の声「来日前の目標はお金を稼ぐことでしたが、今では、自分の経験・培った技能を活かし、誰かの役に立つ人になりたいと考えています。また、仕事だけでなく、地域の福祉施設でのイベントへの参加を通じ、地域の皆さんの笑顔があふれることが嬉しいです」
給与体系の例
・技能実習生 約15万円程度
↓
・外国人建設就労者(特定活動)1年目 約26万円程度
↓
・職長(サブ)に昇格 約29万円程度
造船業の企業の取組事例
3社目:造船業の受け入れ企業
・所在地:四国地方等
・外国人就労者の出身国:中国
受け入れ企業の取組とは?
充実した施設を提供
・専用の寮を新設。地方ならではの広い敷地を活かし、充実した施設を安価に提供。
・6畳個室。家族と連絡が取れるようインターネット完備。
・昼食無料、自炊も可能。・仲間と運動を楽しめるよう卓球場、ビリヤード室、トレーニングジムを完備。
・これらの設備を備えた寮を15,000円/月で提供。
便利な立地
・車がなくても生活に困らないよう、大型ショッピングセンターまで徒歩10分の好立地。・近隣にグラウンド。サッカーやバスケットボールが楽しめる。
アットホームな環境
・社員旅行や夏の慰労会などを開催。
・旧正月・中秋節などには、プレゼント配布。
充実した生活サポート
・通訳が24時間体制で常駐しており、支障なく生活できるよう生活面でもサポート。
・実習生向けの社内報を毎月1回発刊。(日本・中国の情報発信など)
受け入れ企業で働く中国人の声
「造船所では溶接の仕事をしています。先輩の指導のおかげで、今では殆どの作業を一人でこなしています」
「私達の住んでいる寮では、快適に過ごしています!」
「休日には卓球場やトレーニングジムで体を動かします」
「作業服や昼食を無料にしてくれており、助かってます!」
「通信費・水光熱込みで寮費15,000円であり、その分、給料の多くを仕送りに充てられます」
受け入れ企業におけるキャリアパスの例
1ヶ月間…母国で日本語、基礎研修
1ヶ月間…国内での研修1ヶ月後…技能実習生として溶接作業に従事
2年後…造船特定活動の就労者として従事
3年後…現場の班長として10人の若手を指導
将来…特定技能1号で来日予定
受け入れ企業による外国人労働者受入制度の評価
・造船特定活動は、建造工程の円滑化・安定化に大きな貢献を果たした制度です。結果として、日本人雇用の安定継続にもつながっています。
・新たな「特定技能」制度は、技術力の高い日本において、より高度な技能をより長く身につけることができ、外国人実習生等からも歓迎される制度といえるでしょう。
4社目:造船業の受け入れ企業
・所在地:九州地方など
・外国人就労者の出身国:ベトナム
受け入れ企業の取組みとは?
細やかな安全指導・技能指導
・ベトナム人就労者が安心安全に働くことができるよう、常勤ベトナム人通訳スタッフが安全面の指導をアシスト。
・日本人技術者だけでなく、先輩ベトナム人就労者が実習生を細やかに技術指導・アシスト。先輩就労者は自覚と気概を、実習生は安心感をもって仕事にあたっている。
日本語の習熟
・常勤ベトナム人通訳スタッフを各事業所に配置して、日本語講習を指導・実施。
・自主的な上達を促すため、日本語資格習得者への報奨金制度を用意。
・実習生全員に、来日する前6か月の日本語教育を企業負担で実施。
就労状況等のフォローアップ
・会社スタッフとの面接相談を定期的に実施(3ヶ月毎)。
・常勤ベトナム人通訳スタッフが日本での生活や職場に関する相談に丁寧に対応。
職住近接
・地方都市のため、職場の近くに寮があり便利。
・安い寮費で住まいを提供している上、自転車を無償貸与するなど通勤にも配慮。
受け入れ企業で働くベトナム人の声
「造船特定活動による就労者として、溶接作業に従事しています。技能実習の経験があるので、今の仕事には直ぐに慣れました」
「分からないことがあれば、現場の指導者の方が通訳スタッフの助力も得て、現場でしっかり教えてくれます」
「会社の方との面談では親切に相談に乗ってもらえるので、助かっています」
「日本語は少しずつ上達していて、若手実習生をフォローすることもあります」
「宿舎は改装されてキレイで、光熱・通信費込で2万円です。職場にも近く、快適な生活を送っています」
「自転車も無料で貸してもらえるので、買物や観光に便利です」
キャリアパスの例
・6か月間…母国で日本語、基礎研修
・2か月間…国内で技能・安全・日本生活等の研修
・来日2か月後…技能実習生として実地溶接作業等に従事
・1号・2号実習(合計3年)修了時…溶接技能評価試験専門級試験受験
・一時帰国、再入国後…造船特定活動の就労者として従事
・特定活動終了後…特定技能1号として従事(予定)(総合評価で班長への道も)
受け入れ企業による外国人労働者受入制度の評価
・造船特定活動により、外国人材は実習で学んだ技能を実務の多様な場面で実践でき、人材確保で苦慮している受け入れ企業の現場にとっても有益な制度です。
・新たな受け入れ制度「特定技能」により、作業を主導するリーダーや班長となれる力量を持つ者も出てくると考えられます。更なる技能の向上により、外国人の母国産業と日本産業双方の発展に寄与することが期待されます。
農業の企業の取組例
5社目:酪農の受け入れ企業
所在地:北海道
従業員:正社員8名、技能実習生4名(フィリピンより全員女性)、20歳代、パートなど4名
経営規模:乳牛980頭(年間生産生乳量は1ℓパック500万本分)
受け入れ開始:平成27年6月
給料:手取り給与額13万円程度
受け入れ企業の取組
・採用時は現地で直接面接。
・実習生用の社宅(2棟6名分)を整備(整備費は約5,000万円)。
・「家族と同様に接する」をモットーに、休日は近隣の観光、宴会などに連れ出している。
6社目:畑作・野菜の受け入れ企業
所在地:香川県
従業員:正社員4名、技能実習生10名、パート等2名
経営規模:55ヘクタール(レタス、ネギなど)
受け入れ開始:平成16年から受け入れ(インドネシアより)
受け入れ企業の取組
・人事・昇給制度等の処遇も日本人正社員と同等
・女性実習生(実習3年目)を作業部門の責任者に登用
・受け入れにより経営規模の拡大、労務管理の改善を実現
・販売高は受け入れ前の10倍に
・受け入れ企業の元技能実習生がインドネシアに戻って送出機関を作り、連携
・地域農家20戸が平成23年に自らで監理団体を組織
・地域の行事等への参加を促す、祭りでインドネシアの歌を合唱するなど意識的に接点づくりに取り組む
まとめ
日本では深刻な人手不足のため、外国人労働者の受け入れる企業が増加してきています。外国人労働者を企業で受け入れる場合は、上記の先進的な事例を参考にしながら国の制度を上手に活用していきましょう。
参考:法務省HP「新たな外国人材の受け入れ及び共生社会実現に向けた取組」