目次
はじめに
外食産業は人手不足により苦境にあるとされています。
しかし特定技能の在留資格導入により、外国人労働者を確保できる見込みが出てきたことで、外食産業に盛り上がりが戻るかどうかに注目が集まっています。
この記事では、外食産業の現状や、特定技能制度が外食産業にあたえる影響について解説します。
外食産業の現状
外食産業は人手不足が続き、一方で仕事量が増えている現状です。
とくに人手不足は深刻で、業界全体で80.5%もの企業が「人手不足」と感じているというアンケート結果もあります。では、外食産業を低迷させる原因でもある人手不足は、何が原因で発生しているのでしょうか?
給与水準の低下
外食産業は給与水準が低く、40歳の平均年収を見ると63ある業界のなかでも58番目、下から5番目という水準です。
給与水準が低ければ社員やアルバイトの募集をかけても人手が集まりづらく、人手不足解消に至らないのは当然の結果といえます。
また給与水準の低さは既存従業員に影響を与えています。給与が低ければ人材の他社への流出を生みやすく、自社に定着してもらいにくくなるのです。
したがって、雇用がうまく行って一時的に人手不足が解消したとしても、給料水準の低さから従業員が簡単に辞めてしまうため、いつまでたっても人手不足の状態から抜け出せないという悪循環を生んでいます。
この問題を解消するためには、給与を見直し、賃金を上げるしかありません。
仮に現在、最低賃金で働かせているのであれば、他社に人材を流出させないために賃金を上げるべきです。低賃金で働かせるのは人件費を抑えることに繋がりますが、ベテランが辞めたあとに新人を再教育する手間や損失を考えると、給与水準を下げるのはかえって失策とも言えるでしょう。
労働環境の悪化
労働環境の悪化も、外食産業で人手が足りなくなる要因です。
外食産業は土日祝日、また大型連休といった、世間の休日こそかき入れ時であり、多くの客が来店してきます。
その期間中に店をスムーズに回すには、人員を確保するのが大切です。しかし土日祝日や大型連休にも出勤しなければならないということは、平日出勤・土日祝日休みの業種や学校と違い、家族サービスもしにくい労働環境と言えます。
ほかにも労働環境を悪化させている要因はあります。それは、人手不足による一人あたりの仕事量増加です。
平日でも休日でも、人手不足の店がスムーズに店を運営するためには、一人あたりの仕事量を増やすしかないのです。
もちろん給与が高ければ人材も集まりやすいですが、一時的なものにすぎません。
したがって、仕事の多さに耐えきれなくなったベテランは辞め、仕事に慣れていない新人が残るという悪循環に陥ってしまうのです。
昨今では、24時間営業の外食産業も珍しくなくなりましたが、だがその裏でだれかが過大な負担をしていることは確かといえます。
現に、ワン・オペレーションを実行して人手不足・人件費を解消させたことで問題となった外食チェーンがあります。
労働環境が悪ければ、おのずと従業員は集まりづらくなります。このことは外食産業を取り巻く最大の課題と言えるでしょう。
少子高齢化による客不足
少子高齢化によって客足が減り、問題となるケースもあります。
日本は、先進国のなかでもトップを争う少子高齢化国家です。このまま高齢化が進み、働き盛りの若者が減れば人員確保が難しくなるのはもちろん、外食をする機会も減ってしまいます。
ファミリーレストランを例にすると、客層は主に若い世代の家族や学生であり、高齢者ではありません。
店内を見渡せばお分かりでしょうが、お年寄りの客は、貴重な存在と言えます。
いぜんとして出生率は低い数値のままであり、今後ますます少子高齢化が進むと予想されます。また、さらに高齢化により客足が減少傾向となるのであれば、外食産業に大打撃をもたらすことでしょう。
入管法改正で外食産業に特定技能導入!
入管法改正により、「特定技能1号」と「特定技能2号」のビザが発行されるようになりました。
在留資格が増えたことにより、外食産業を活性化させることも可能と見られています。では、外国人労働者を確保するためには特定技能をどのように活用すべきなのかを解説していきます。
特定技能とは?
特定技能とは、外食産業においては調理・接客などの知識や経験がある外国人を対象にしたビザのことです。特定技能は1号と2号の2種類に分かれています。
特定技能1号では、在留期間は上限5年まででビザの更新はできず、一定の日本語能力と業種ごとに定められた技能試験を受けねばなりません。
特定技能2号は特定技能1号の上位にあるものであり、ビザの更新を行えば特定技能1号ではできなかった、家族と一緒に在留が許可されます。しかし、熟練した技能を持ち合わせていることが条件になっているため、取得は容易でありません。
よって、個人的に出稼ぎに出る外国人だと、多くの場合に特定技能1号のビザが利用されることになり、最長で5年間の契約となるのです。
受け入れるための基準
外食産業で特定技能を持った外国人を受け入れるためには、企業ごとに基準を設ける必要があります。調理や接客の技能を持っていても、その技能が現場で役に立つものなのか、企業ごとに異なるからです。
例えば、ファーストフード店ならば調理も接客も簡単なものでいいでしょう。しかし高級レストランでは、調理や接客技能に相当な水準を要求されます。
したがって、受け入れ基準は各企業で調整することはもちろん、受け入れる外国人が、最低限どの程度の技能を持っており、実際に現場でその技能を発揮できるのかどうかをよく確認することが大切です。
また、日本人労働者と外国人労働者の間で差別を行わないように注意が必要です。例えば、まったく同じ働きをしているにもかかわらず、日本人には月給20万円、外国人には月給15万円、といった差別は認められません。必ず日本人と同等か同等以上の給料に設定しましょう。
外国人採用支援計画
外国人採用支援計画とは、企業に求められる義務や支援であり、この計画を出せないと特定技能を持った外国人を受け入れることができません。外国人労働者は、初めから流ちょうな日本語を話すわけではなく、また日本の生活にすぐなじめるわけでもないので、特定技能を持った外国人を採用したいのであれば、日本語能力のサポートや、住居確保のサポートなど、さまざまな支援を行わねばなりません。
しかし、登録支援機関に委託すれば、企業自体が行うはずの義務や支援を丸投げできるため、効率よく外国人労働者を採用することが可能です。人手に困っているのであれば、早いうちに登録支援機関に相談するのも一つの手となります。
外食業技能測定試験とは?
外食業技能測定試験とは、特定技能1号のビザを取得するために必要なものです。それでは、具体的にどのような内容を試験されるのか、解説していきます。
衛生管理
外食産業において、衛生管理は最重要とも言える事項となります。Twitterで拡散され、ニュースにもなった「冷蔵庫に入る」などのおふざけは、日本人であってもやってはいけない行動です。
これらは一般的衛生管理の知識範囲として、特定技能1号の試験にも出題されています。
また食中毒を引き起こさないよう、基本的な衛生管理の知識と、重要管理のポイントとしてHACCPの考え方を取り入れた衛生管理や、加熱するものや加熱しないものなどの管理方法などが出題されます。
飲食物調理
飲食物の調理のテスト項目として、原材料に関する知識、下処理に関する知識、調理方法に関する知識、調理器具や備品などに関する知識、そして労働安全衛生に関する知識が求められます。
これも、調理をするにあたって、一般的な知識と言えるものです。
特段難しいものではありませんが、出身の関係上、特定の肉や魚への知識が乏しいと、特定技能号の試験といえども、勉強せねば取得ができなくなってきています。
接客全般
外食産業における接客全般を試されるのが、この項目です。
接客における基本動作や、食物アレルギー、また調理場以外の清掃作業、クレームが入った際の対応、災害や体調不良者が出た場合の対処法など、接客の範囲は幅広く、中でもクレーム対応は、日本語能力が高くない外国人労働者にとっては、対応が難しいものです。
これらテスト内容はテキストが公開されているため、外国人労働者はしっかり対策をしてから特定技能1号試験に臨むことが可能です。
外食産業での特殊技能には不安の声も?
特定技能のビザが取得できるようになっても、外食産業では不安の声が根強いのも事実です。ここでは懸念材料をそれぞれ解説していますので、それぞれみていきましょう。
明確な技能の定義がない
実は特定技能1号は特に、明確な技能の定義がなされていません。あくまでも「基本的な」内容をテストして合否を判断するのものであり、実践ですぐに役立つとは限らないのです。
先にも述べたとおり、ファーストフード店と高級レストランでは、調理も接客も求められるレベルに大きな差があります。
特定技能を持っているからといって、必ずしも高級レストランで求められるレベルの技能を有しているとは限りません。
もちろん、ファーストフード店で求められる個別の接客や調理方法もあるため、テストで出題された内容と差が出てしまうことも少なくありません。
待遇が良くない
現状、日本の外食産業における労働環境はお世辞にも良いとは言い難いです。
労働環境の悪化により、日本人が外食産業から流出しやすいからこそ、外国人労働者を雇いたい企業が多いと考えられます。
しかし給与や休日などの待遇が良くない業種に、好き好んで就職したがる外国人労働者はどれほどいるでしょうか。
母国で働くよりは収入はいいかもしれませんが、日本で生活していれば、就業期間中の生活費も相応に高くなってしまいます。
待遇が良くならなければ、日本人同様に、外国人労働者も他業種へ流れてしてしまうのが実情と考えられます。
人材を奪い合う懸念
外食産業は5年間に約5万3千人の特定技能を持った人材を受け入れられる見込みですが、これは外食産業全体での人数となります。
1年間で約1万人の受け入れとなり、人材を同業他社はもちろん、自社内でもどの店舗に配属させるか、奪い合いになる懸念が生じます。
仮に大手のハンバーガーショップとファミリーレストランで各店舗に1人の特定技能を持った外国人を採用しただけで、1年間で受け入れられる見込みとなる1万人を使い果たしてしまいます。
実際には数人の受け入れをして、人材確保をしたい外食産業各社からすれば、5年間で約5万3千人という数値では少なすぎるのです。
したがって、人材の奪い合いが発生し、人材確保に失敗した企業は衰退する一方と予想されます。
外食産業で特殊技能を活用するポイント
最後に、外食産業で特定技能のビザを活用するためのポイントを3点紹介していきます。ここで紹介する3点のポイントを押さえることで、特定技能をより有効活用することが可能です。
特定技能1号の在留資格を取得する
特定技能1号在留資格に切り替えを行うことで、最長で5年間の在留資格を得ることができるのは、先に解説したとおりです。
就労ビザも最長5年ですが、審査状況によっては3年や1年でビザの更新ができなくなってしまうこともあります。
その点、特定技能を生かした就労をしていれば基本的に5年までは更新が可能な特定技能1号在留資格は、通算で最長5年とはいえ、使い勝手のいい資格と言えるのです。
受入人数を把握する
見込みではありますが、今後5年間での受入上限人数は、飲食業界全体で約5万3千人となっています。
今後、特定技能1号ビザの取得条件が緩和されれば、受入上限人数にも変動があるかもしれません。
業務内容を明確に
業務内容が明確化されていないと、外国人労働者も就職先を選択する際に迷ってしまい、人材確保が困難になってしまいます。
これは、日本人向けの求人であっても同じですので、業務内容は外国人かつ特定技能を持つ、もしくは取得を予定している人材に向け、より明確化されたものを提示すべきと言えます。
仮に業務内容が明確にされている企業と、単純に「調理や接客作業できる方を求む」とした場合、その他条件が同じでも外国人労働者が不安を抱かずに応募できるのは前者の企業です
業務内容が明確化されれば、自分のスキルに合わない企業には応募することができなくなります。 双方にメリットがあることなので、業務内容は明確にして求人を行うべきと言えるのです。
まとめ
外食産業では、深刻な人材不足が続いています。しかし、特定技能のビザが取得できるようになったことで、今後5年間で約5万3千人の人材確保が見込まれている状況です。
しかし、在留資格や人材確保の見込み数だけで安心してはいけません。自社でどれほど特定技能への対応を進めていけるのか、また外国人労働者への理解を深められるのかも重要になってきます。
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- 執筆者
- 外国人労働者ドットコム編集部