特定産業分野の「飲食料品製造業」とは?
特定技能とは、日本の産業界における深刻な人手不足を解消するため、2019年の4月から新たに導入された在留資格で、就労可能な在留資格の一種です。
この新しい在留資格を創設する目的は日本の「人手不足の解消」にあります。
人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野として、14業種の分野が選ばれました。
①介護
②ビルクリーニング
③素形材産業
④産業機械製造業
⑤電気・電子情報関連産業
⑥建設
⑦造船・舶用工業
⑧自動車整備
⑨航空
⑩宿泊
⑪農業
⑫漁業
⑬飲食料品製造業
⑭外食業
この記事では、14業種中の飲食料品製造業について説明していきます。
「飲食料品製造業」とは、生ものである原材料を購入し、工業規模で食品・飲料の製造を行い、製造した製品を販売することで収益を得る業種のことをいいます。人間の「食べる」という行為を支えている重要な産業です。国民の栄養状態、健康状態に影響を及ぼすため、その安全性には特に注意を払わなければならないといえます。
飲食料品製造業分野では外国人労働者の受け入れとして、開発途上国が日本で技術や知識を修得する「技能実習制度」が行われていました。今までの「技能実習制度」に加えて、新たな「特定技能」の在留資格が創設されたことによって、外国人労働者が今後とも増加していくのが期待できます。
受入見込数
5年間で最大34,000人(受入れの上限として運用)
雇用形態
直接雇用のみで、派遣雇用は認められていません。
飲食料品製造業分野での外国人労働者の受入れの必要性とは?
飲食料品製造業分野での外国人労働者の受入れについては、次のような理由での必要性があります。
・飲食料品製造業は、事業所数及び従業者数が製造業の中では第1位であり、大都市圏とそれ以外の地域において、従業者数比率に大きな偏りはなく、地域経済の観点からも雇用と生産を支える産業として重要な役割。
・飲食料品製造業分野における労働力需給の現在の状況は、他の製造業と比べ雇用人員不足感が高い状況。
・飲食料品製造業分野においては、ある程度目視や手作業に頼らざるを得ない工程もあり機械化の取組にも限界があること。
・2018年の食品衛生法改正により、2020年6月までに全ての飲食料品製造業者にHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化への対応が求められることから、今後、飲食料品の製造現場においてHACCP(ハサップ)を含む衛生管理の知識を有する人材を確保していくことが急務な状況。
HACCP(ハサップ)とは?
HACCPとは
「Hazard(危害)」
「Analysis(分析)」
「Critical(重要)」
「Control(管理)」
「Point(点)」
という言葉の略語で、食品を製造する際に安全を確保するための管理手法のことを言います。
日本語ではそのまま「危害分析重要管理点」と訳されます。HACCPは、食品の製造・出荷の工程で、どの段階で微生物や異物混入が起きやすいかという危害をあらかじめ予測・分析して、被害を未然に防ぐ方法です。
この点がそれまで行われていた製品の抜き取り検査による安全確認とは大きく違うところです。
HACCPは1960年代にアポロ計画が進められていたことで、宇宙食などの食品の安全性を確保するためにNASA(アメリカ航空宇宙局)を含むアメリカの各機関によって構想されました。
その後、1973年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が缶詰食品の製造基準として取り入れたのをきっかけに普及がはじまりました。
そして現在HACCPは、食品の安全性を向上させるための国際的な基準となり、制度化されました。
各国では着々とHACCP導入を行い、食品の安全性向上を計っていますが、日本ではHACCPの導入率はとても低いものとなっております。
数多くある先進国の中でも非常に低く、そのため日本でもHACCP導入の義務化が進んできています。しかしながら、食品等事業者の人手不足などの問題も深刻で、導入が遅れているのが現状で、外国人労働者が多く必要とされています。
飲食料品の製造工程で衛生管理ができるのはどんな人材?
・主な食中毒菌や異物混入に関する基本的な知識・技能
→ 食中毒菌の繁殖防止や殺菌の方法について正しい知識を身につけ、適切に対応できる。
・食品等を衛生的に取り扱う基本的な知識・技能
→ 原料の選別・洗浄から製造・保管までの間、食品を常に衛生的に管理できる。
・施設設備の整備と衛生管理に関する基本的な知識・技能
→ 施設内外の清掃・点検を的確に行い、施設設備の衛生状態を良好に管理できる。
飲食料品製造業における生産性向上と国内人材確保の取組とは?
飲食料品製造企業の自主的な取組
生産性向上の取組①ロボットの導入などの設備投資
・「製造・加工」や「包装・充填」などの作業工程の省人化
・重労働や過酷作業の軽減
生産性向上の取組②IoT・AI等を活用した省人化・低コスト化
・稼働状況等のデータ収集・解析による業務の高度化
・目視作業を代替する不良品判定技術の導入による省人化
生産性向上の取組③専門家による工場診断
・ムダ・ロスのない作業効率の改善
・製造現場の見える化による業務最適化
国内人材確保の取組①雇用環境の改善
・事故の模擬体験研修による労働安全性向上
・転勤がない地域正社員制度を導入し、子育てや介護、家事をしながら働く社員に配慮
・高齢者でも働きやすい環境を整備
国内人材確保の取組②研修・セミナーの実施
・人材の育成・フォローアップに関する企業向けのセミナーを開催(例:離職防止セミナー)
農林水産省の取組
生産性向上の取組①食品製造業者向けの生産性向上フォーラムの実施
・人材確保に悩む食品事業者の課題解決策を提案
生産性向上の取組②食品産業イノベーション推進事業の実施
・食品製造業者によるロボット・AI・IoT等の先端技術の導入実証を支援
国内人材確保の取組①食品産業の働き方改革検討会
・経営者層向けのハンドブックの作成
農林水産省HP「食品産業の働き方改革 早わかりハンドブック」
飲食料品製造業における外国人労働者の状況とは?
日本の飲食料品製造業の従業者数は140万人となっています。飲食料品製造業の外国人労働者の人数は以下の通りです。
在留資格 | 人数 |
①技能実習 | 45,739人 |
②専門的・技術的分野の在留資格及び特定活動 | 3,646人 |
③永住権等の身分に基づく在留資格 | 41,559人 |
④資格外活動(留学生及び家族滞在) | 28,412人 |
⑤不明 | 4人 |
総数 | 119,360人 |
参考:2018年 経済産業省「経済センサス」及び「工業統計調査」
飲食料品製造業分野の対象業種・業務とは?
・ 1号特定技能外国人が従事する業務は、飲食料品製造業全般(酒類を除いた飲食料品の製造・加工、安全衛生)です。
・ あわせて、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(原料の調達・受入れ、製品の納品、清掃、事業所の管理の作業等)に付随的に従事することは差し支えありません。
・ 飲食料品製造業分野の対象は、日本標準産業分類の以下7分類に該当する事業者が行う業務としています。
1号特定技能の飲食料品製造業分野の対象範囲
①食料品製造業
②清涼飲料製造業
③茶・コーヒー製造業(清涼飲料を除く)
④製氷業
⑤菓子小売業(製造小売)
⑥パン小売業(製造小売)
⑦豆腐・かまぼこ等加工食品小売業
食料品製造業の内訳
・畜産食料品製造業
・水産食料品製造業
・野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品製造業
・調味料製造業
・糖類製造業
・精穀・製粉業
・パン・菓子製造業
・動植物油脂製造業
・その他の食料品製造業
(でんぷん、めん類、豆腐・油揚げ、あん類、冷凍調理食品、惣菜、すし・弁当・調理パン、レトルト食品等)
技能実習の飲食料品製造業分野の対象範囲
技能実習は、技能実習1号(1年)→ 技能実習2号(2年)→ 技能実習3号(2年)という流れで進んでいきます。
号数が上がる程、高度な技能が必要になり、最長で5年間、日本で技能実習ができます。
業種 | 1号 | 2号 | 3号 |
缶詰巻締 | ○ | ○ | ○ |
食鳥処理加工業 | ○ | ○ | ○ |
加熱性水産加工食品製造業 | ○ | ○ | ○ |
非加熱性水産加工食品製造業 | ○ | ○ | ○ |
水産練り製品製造 | ○ | ○ | ○ |
牛豚食肉処理加工業 | ○ | ○ | ○ |
ハム・ソーセージ・ベーコン製造 | ○ | ○ | ○ |
パン製造 | ○ | ○ | ○ |
そう菜製造業 | ○ | ○ | ○ |
農産物漬物製造業 | ○ | ○ | ✕ |
医療・福祉施設給食製造(外食業分野) | ○ | ○ | ✕ |
めん類製造業 | ○ | ✕ | ✕ |
冷凍調理食品製造業 | ○ | ✕ | ✕ |
菓子製造業 | ○ | ✕ | ✕ |
飲食料品製造業の1号特定技能外国人の基準とは?
飲食料品製造業分野において特定技能1号の在留資格で受け入れる外国人は、以下の①「飲食料品製造業技能測定試験」②「国際交流基金日本語基礎テスト」or「日本語能力試験(N4以上)」の試験に合格した人、または飲食料品製造業分野の第2号技能実習を修了した人となっています。
①「飲食料品製造業技能測定試験」
技能水準を判断するため、「飲食料品製造業技能測定試験」に合格する必要があります。
【試験の内容】
飲食料品製造業分野における業務を行うのに必要な能力である、食品等を衛生的に取り扱い、飲食料品の製造・加工作業の業務について、特段の育成・訓練を受けることなく、直ちにHACCPに沿った衛生管理に対応できる専門性・技能を有することを確認する。
【測定の方法】
試験言語:現地語(日本国内試験は日本語)
実施主体:一般社団法人外国人食品産業技能評価機構
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式またはペーパーテスト方式
実施回数:国内外において、年おおむね10回程度
最新の詳細情報については「一般社団法人外国人食品産業技能評価機構HP」をご確認ください。
②「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」
日本語能力水準を判断するため、「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格する必要があります。
「国際交流基金日本語基礎テスト」
【日本語能力水準】
ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力を確認する。
【評価方法】
実施主体:「独立行政法人国際交流基金」
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね6回程度、各国の国外で実施
最新の詳細情報については「国際交流基金日本語基礎テストHP」をご確認ください。
「日本語能力試験(JLPT)(N4以上)」
【日本語能力水準】
ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力を確認する。
【評価方法】
実施主体:「独立行政法人国際交流基金」および「日本国際教育支援協会」
実施方法:マークシート方式
実施回数:国内外で実施。概ね年1~2回実施
最新の詳細情報については「国際交流基金日本語基礎テストHP」をご確認ください。
特定技能所属機関(受入れ事業者)に対して課す条件とは?
1,特定技能所属機関は、農林水産省、関係業界団体、登録支援機関その他の関係者で構成される「食品産業特定技能協議会」(以下「協議会」という。)の構成員になること。
2,特定技能所属機関は、協議会に対し、必要な協力を行うこと。
3,特定技能所属機関は、農林水産省またはその委託を受けた者が行う調査等に対し、必要な協力を行うこと。
4,特定技能所属機関は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するに当たっては、上記1、2および3の条件を全て満たす協議会の構成員となっており、かつ、農林水産省及び協議会に対して必要な協力を行う登録支援機関に委託すること。
「食品産業特定技能協議会」の協議事項
① 外国人の受入れに関する情報の周知その他制度理解の促進
② 法令遵守に関する通知及び不正行為に対する横断的な再発防止
③ 外国人の受入れ状況の把握及び農林水産省への報告
④ 人材が不足している地域の状況の把握及び当該地域への配慮
⑤ その他外国人の適正で円滑な受入れ及び外国人の保護に資する取組
まとめ
「飲食料品製造業」は全国的の雇用の需要があり、人材不足対策が必要な分野となっています。今後とも、「飲食料品製造業」において、外国人労働者の受け入れを検討していくことが必要でしょう。
参考:農林水産省HP「飲食料品製造業分野における外国人材の受入れ拡大について」