特定産業分野の「航空業」とは
深刻な人材不足のため雇用確保が困難な状況にあり、外国人労働者の受入れによって人材確保を図るべきとされている産業上の分野があります。それらは「特定産業分野」と呼ばれており、「航空業」はこの14分野のひとつとなっています。
航空業の人材不足に対応するために、専門性・技術を持っている外国人労働者を日本に受け入れます。
いわば、「即戦力」と呼べる人材を外国から受け入れるということです。
特定技能1号の業務内容
在留資格「特定技能1号」により外国人労働者が従事することのできる業務は、以下の区分となっています。
・空港グランドハンドリング(地上走行支援業務、手荷物・貨物取扱業務)
航空機の地上走行支援業務…航空機の駐機場への誘導や移動
手荷物・貨物取扱業務…手荷物・貨物の仕分け、ULDへの積付、取り降し・解体
手荷物・貨物の航空機地上走行支援業務…手荷物・貨物の航空機への移送、搭降載
航空機内外の清掃整備業務…客室内清掃、遺失物等の検索、機用品補充や機体の洗浄
・航空機整備(機体、装備品などの整備業務など)
運航整備…空港に到着した航空機に対して、次のフライトまでの間に行う整備
機体整備…通常1〜1年半毎に実施する、約1〜2週間にわたり機体の隅々まで行う整備
装備品・原動機整備…航空機から取り下ろされた脚部や動翼、飛行・操縦に用いられる計器類等およびエンジンの整備
また、当該業務に従事する日本人が通常従事している関連業務に、特定技能外国人が付随的に従事することは差し支えありません。ですが、もっぱら関連業務に従事することは認められないので、注意しましょう。関連業務にあたるものとしては、以下のものが想定されます。
・事務作業
・作業場所の整理整頓や清掃
・積雪時における作業場所の除雪
雇用する機関(所属機関)に課される条件
在留資格「特定技能1号」を持つ外国人労働者が所属する機関(事業者・雇用者)には以下の5つの条件が課されます。内容は主に、「機関となれる事業者」「協議会の構成員になること」「支援計画の委託先」に関してです。
1.空港管理者により空港管理規則に基づく当該空港における営業の承認などを受けた事業者、もしくは航空運送事業者、または航空法に基づき国土交通大臣の認定を受けた航空機整備などに係る事業場を有する事業者、もしくは当該事業者から業務の委託を受ける事業者であること。
2.特定技能所属機関は、国土交通省が設置する協議会の構成員になること。
3.特定技能所属機関は、協議会に対し、必要な協力を行うこと。
4.特定技能所属機関は、国土交通省又はその委託を受けた者が行う調査、または指導に対し必要な協力を行うこと。
5.特定技能所属機関は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するに当たっては、上記2、3および4の条件を満たす登録支援機関に委託すること。
雇用形態
航空業における在留資格「特定技能1号」を持つ外国人労働者の雇用形態は、直接雇用のみとなっています。派遣型での雇用は認められていません。
人材の基準
航空業において在留資格「特定技能1号」を持つ外国人労働者として受け入れる基準は、「特定の水準を満たす(試験の合格)者」、「航空分野の第2号技能実習を修了した者」のうちのいずれかに当てはまるかどうかです。試験は以下のとおりです。
1.技能水準(試験区分)
「航空分野技能評価試験(空港グランドハンドリング)」
「航空分野技能評価試験(航空機整備)」
2.日本語能力水準
「日本語能力判定テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」
「航空分野技能評価試験(空港グランドハンドリング)」に関する試験は、社内資格を有する指導者やチームリーダーの指導・監督の下、空港における航空機の誘導・けん引の補佐、貨物・手荷物の仕分けや荷崩れを起こさない貨物の積付け等ができるレベルであることを確認するものです。
「航空分野技能評価試験(航空機整備)」に関する試験は、整備の基本技術を持っており、国家資格整備士等の指導・監督の下、機体や装備品等の整備業務のうち基礎的な作業(簡単な点検や交換作業等)ができるレベルであることを確認するものです。
また、技能実習2号を修了したものに関しては、技能・日本語能力に対して以下のような評価がされます。
「空港グランドハンドリング職種」の第2号技能実習を修了した者
「空港グランドハンドリング職種」の第2号技能実習を修了した者については、当該技能実習で修得した技能が、特定技能外国人が従事する業務で必要とされる技能である「空港における航空機の誘導・けん引の補佐」、「貨物・手荷物の仕分けや荷崩れを起こさない貨物の積付けなど」という2点で、技能の根幹となる部分に関連性が認められています。このことから、修得した技能が「地上走行支援業務」、「手荷物・貨物取扱業務」などの空港グランドハンドリング業務で必要とされる一定の専門性・技能を持っており、即戦力となるに足りる相当程度の知識・経験を有するものと評価されます。したがって、技能水準に関する試験が免除されます。
第2号技能実習を良好に修了した者
第2号技能実習を良好に修了した者については職種・作業の種類にかかわらず、技能実習生として良好に3年程度日本で生活したことから、ある程度日常会話ができる、生活に支障がない程度の日本語能力水準を有する者と評価されます。したがって、技能水準および日本語能力水準の試験が免除されます。
水準を確認するための書類
試験合格者の場合は、技能水準を満たすものとして以下のいずれかが対象となります。
・特定技能評価試験(航空分野:空港グランドハンドリング)の合格証明書の写し
・特定技能評価試験(航空分野:航空機整備)の合格証明書の写し
日本語能力の水準を満たすものとして以下のいずれかが対象となります。
・国際交流基金日本語基礎テストの合格証明書の写し
・日本語能力試験(N4以上)の合格証明書の写し
ただし、修了した技能実習2号の職種・作業の種類にかかわらず、技能実習2号を良好に修了した者は、国際交流基金日本語基礎テストおよび日本語能力試験(N4以上)のいずれの試験も免除されます。
「航空業」の現状
生産性向上・国内人材確保のための取り組み
生産性向上に関しては、以下のような取り組みがあります。
・業務のマルチタスク化
・IT技術屋新型機器の導入による作業の効率化
・新型航空機の導入による作業工数の縮減
・シミュレーターによる支援車両操作訓練などの導入
「シミュレーターによる支援車両操作訓練などの導入」では、訓練の際に実機材を使用する必要がなくなるので、人材育成が効率化されます。平成28年下期では延べ4ヶ月程度であった期間が、平成29年度下期では延べ2ヶ月程度に短縮されています。
平成30年に設置された「航空イノベーション推進官民連絡会」では以下の目標が、官民連携により設定されました。
・2020年までの空港グランドハンドリングでの省力化技術の導入
・2030年までの自動化技術の導入
支援車両(貨物運搬車)の自動走行、旅客搭乗橋の自動装着など、先端技術の活用に向けた実証実験が行われ、業務の省力化・効率化が図られています。
国内人材の確保に関しては、処遇の改善として、賃金水準の改善、諸手当の拡充などが進められています。また、新規雇用の増加と若年離職者の抑制を図るための労働条件や職場環境の改善として、公休日数の引き上げ、育児休業制度の拡充などが進められています。
継続雇用の拡大により、高齢層の活用が進んでいます。65歳以上の整備士を雇用する主要事業者が、平成25年から平成30年までの5年間で、約3割から約7割に増えました。
さらに、航空業界を目指す若者の裾野の拡大を図るために、若年層の関心を高めるキャンペーン、女性航空従業者による女性の就業促進に向けた講習会などが、産学官連携のもと行われています。
外国人受入れの必要性
日本の航空需要は拡大しており、これを支えるための人材確保が必要となっています。
実際、近年の訪日外国人旅行者の増加、LCC(格安航空会社)の事業拡大により、過去5年間で国際線の旅客数は約1.6倍、着陸回数は約1.5倍に増加しています。さらに、「明日の日本を支える観光ビジョン」における訪日外国人旅行者数の政府目標(2020年に4000万人、2030年に6000万人)達成に対応していくための人材も必要です。
また、航空業の有効求人倍率は高く、人材不足の深刻さがその数値に見られます。
平成29年度の航空分野における主な職種の有効求人倍率は4.17倍〈陸上荷役・運搬作業員4.97倍、他に分類されない輸送の職業2.17倍、輸送用機械器具整備・修理工(自動車を除く)2.00倍〉となっています。航空輸送は日本の経済社会活動や国民生活を支える基盤です。そのため、航空業における「即戦力」は国内の輸送確保のための重要な役割を担っています。
このように、訪日外国人旅行者の増加、国内の輸送確保のために、一定の専門性・技能を持つ外国人労働者を受入れ、航空分野の基盤を維持していくことが必要となっています。
受入れ見込数
向こう5年間の受入れ見込数は、最大2200人とされており、向こう5年間の受け入れ上限にもなっています。
入管法改正による特定技能導入
航空業の深刻な人手不足を解消するための新しい在留資格「特定技能」。以前から様々な在留資格、「技能実習」などがあった中、この「特定技能」自体はどのような経緯で導入されたのでしょうか。
入管法(出入国管理法)および難民認定法は、出入国時の管理規制や、難民の認定手続きの整備を目的とした法律です。この入管法は改正され、2019年4月から施行されました。改正の目的は、日本の労働人材不足を、外国人受入れの拡大によって解消するためです。そして、この改正によって新しい在留資格「特定技能」が創設されました。
入管法改正以前は、単純作業に従事することができる在留資格は「技能実習」のみでした(身分系の在留資格を除く)。ですが、「技能実習」は最長で5年間しか日本で働くことができず、これでは日本の労働人材不足を解消することはできませんでした。「特定技能」はこの問題を緩和するための在留資格と考えられます。
特定技能を活用する際のポイント
1.「技能実習→特定技能」への移行
航空業(空港グランドハンドリング(航空機地上支援作業、航空貨物取扱作業、客室清掃作業))は技能実習の対象です。技能実習2号を修了した外国人は試験免除で特定技能1号に移行することができます。これにより、「技能実習での3年間+特定技能での5年間」で、通算8年間の就労が可能となります。
2.雇用確保の時期をずらす
「特定技能1号」での就労の場合、長くても5年間しか就労できず、帰国してしまいます。ですが、それを見据え、採用のタイミングを1、2年ほどずらすような計画を立てることで、労働力の継続的な確保が可能になります。
3.早めの着手が必要かもしれない
国土交通省によると、航空業における在留資格「特定技能1号」を持つ外国人労働者の受け入れ見込みは、最大で2200人とされており、これが上限です。航空業は有効求人倍率が高い分野です。なので、限られた受け入れ人数の中で、事業者同士が奪い合うことになる可能性が高いと考えられます。雇用を考えている場合は早めの着手が必要かもしれません。
まとめ
今回は、特定技能分野である「航空業」について解説しました。
特定技能外国人は、従事できる業務が限られています。所属する機関の雇用者には国土交通省が設置する協議会の構成員になるなどの条件が課されます。
日本の深刻な人材不足を解消するための新しい在留資格ですが、それを活用するためにはまず、所属機関の事業者が制度を適切に利用することが前提となります。制度の詳細を確認して、適正な運用を心がけたいものです。