はじめに
近年、日本国内の外国人労働者の数は増加し続けており、受け入れ企業に大きく貢献してくれています。しかしその傍ら、悪質な雇用、低賃金での雇用、困難なコミュニケーションなどの問題が発生しています。
日本の人口減少、少子高齢化による労働生産人口の減少は今後も続いていくと考えられるでしょう。そのため、今後も外国人労働者の力を借りることになると言われています。
適切に外国人を受け入れて力を借りていくためには、上記のような問題は必ず解決していかなければいけないということになります。
そこで今回は、外国人労働者の受け入れ問題の事例と課題を解説していきます。
外国人労働者の増加
厚労省によると2018年10月末では、日本では約146万人の外国人労働者が雇用されています。
前年同期比で約18万人増加しており、これは過去最高の数値です。
増加の要因は以下の3つです。
・政府が受け入れを推進していること
・雇用情勢の改善が進んだこと
・技能実習制度の活用が増えていること
このように近年、日本での外国人労働者の増加が進んでおり、増加は今後も続いていくと言われています。
中小企業による雇用が積極的
外国人労働者を雇用する事業所は2018年10月時点で全国に約17万カ所あります。このうちの56.7%が従業員30人未満、外国人労働者全体のうち、34.0%を占めています。
要するに、外国人労働者を雇う企業の多くは、規模が小さい会社ということです。
なぜ外国人労働者を雇用するのか
なぜ外国人労働者を雇用するのでしょうか?
これには主に
・人材不足の確保
・海外進出への期待
・グローバル化への期待
・日本の少子高齢化や人口減少への対策
・企業の発展
などの目的で外国人労働者の雇用が進められています。
外国人労働者に起こる問題
在留資格の悪質な利用
在留資格更新のシステムを悪用した雇用が国内で見受けられています。
永住者などを除く在留資格で滞在する労働者は、ビザの取得が必要とされます。ビザを取得せずに日本で働くと、不法労働となってしまうので、とても重要な資格です。
このビザには更新するタイミングがあり、更新には雇用主の協力が必要です。雇用主に複数の書類を準備してもらう必要があります。これがなければビザの更新はできず、最悪の場合は帰国しなければならないという事態になるかもしれません。
その書類の中には、今後も雇用主側が「今後も雇用する意思」を示すための書類があります。この書類を悪用する雇用主が国内で見受けられています。
この書類を利用して、低賃金での就労を外国人労働者に対して迫る雇用主がそれです。
『あからさまに低い賃金』『以前よりも低い賃金』を提示し、「この書類で申請しなければ、書類を取り下げる。取り下げればあなたは日本にはいられなくなる。」と脅します。
このように、外国人労働者に関するシステムを悪用した雇用が起こっています。
外国人への説明が不十分
雇用関係を結ぶにあたり、書面上での契約書がない、口頭での説明のみという場合があります。
これは、本来労働者に伝えられるべき情報が伝えられず、労働者がルールや契約内容を把握できないということにつながります。
口頭で、「時給〇〇〇円だから。」「1ヶ月で〇〇万円ね。」と、給与の説明。就労時間に関しては、「〇時に来て。」「今日はもう帰っていいよ。」など。
ルールに関しては、残業手当、有給休暇などの労働条件が伝えられないまま時間が過ぎていくという場合があります。
このように、契約内容や管理に関してルーズになるという現状があります。本来企業は、雇用契約書を作成し、労働者に配布する義務があるので、上記のようなことはルールの観点からも、あってはならないと言えます。
いじめ、パワハラ
職場での、日本人によるいじめ、パワハラがあります。
「何を言っているかわからない」「もっと日本語を勉強しろ」「外国人は嫌いだ」などの心無い言葉を吐く、外国の良くないニュースを話題に挙げて、その国の人を悪く言うなどのことが起きています。
これらの行為は、職場にいる外国人労働者を傷つけます。そしてストレスが積み重なり、うつなどの状態に陥る人が実際にいます。
賃金が上がりにくくなる可能性
これに関しては、あくまでこのような指摘があり、議論されているということです。
前述したように、政府は外国人労働者の受け入れを推進しています。これは日本の人手不足を補うために行われているものです。
しかし、これによって労働者の供給が増えれば、人手を求める企業間での獲得競争が弱くなると考えることができます。獲得競争が弱くなれば、各企業は人手を補うために賃金を上げる必要性がなくなります。
一方、外国人労働者の受け入れを抑制すれば、各企業の人手不足がますます深刻化することは言うまでもありません。日本の人口減少が叫ばれていることも踏まえると、人手不足は今後も拡大すると考えられています。そのため、外国人労働者の受け入れは正しい選択肢であるとの声もあります。
この議論は今後も続いていくと思われます。ひとつ言える確かなことは、「外国人労働者は、安価な労働力ではない」ということです。外国人労働者、国内の労働者問わず、賃金が上がることが望まれます。
外国人雇用についての理解
これに関しては問題というより、受け入れ企業にとってのリスクという方がふさわしいでしょう。
外国人を雇用するには、外国人雇用手続き、入国管理法についての理解が求められます。必要な手続きを怠る、確認が不十分などの事があると、その企業が刑事罰の対象となるかもしれません。
このように、外国人を雇用するには事前に理解しておくべきことがあります。
「安価な労働力」「労働力調整」として雇用されている
近年、外国人労働者は優秀な知識・技術を持つ「高度人材」として日本企業に雇用されることが多くなっています。しかしその反面、外国人労働者を「安価に雇用でき、労働環境が多少悪くても、文句を言わない労働者」としてみている企業も少なくありません。
法制度の整備により減少していますが、法制度だけではなく、日本企業それぞれが外国人労働者に対して共通の理解を持つことが必要とされます。厚生労働省の外国人労働者の雇用管理の指針では、「均等待遇」「賃金に関する説明」の確保が掲げられています。そのため、「自社の労働力の調整」として雇用することは絶対にあってはいけません。
むしろ、「外国人の人件費は安い」という考えは古くなっています。平均月収の高い国が増えてきているため、低賃金では日本まで働きには来ないですし、制度としても、日本人同様の給与水準で雇用することが前提となっています。
日本人との生活格差の拡大
法定の範囲内であったとしても、外国人労働者への賃金設定が低いという現状が続いています。
賃金が低いと、生活の環境が悪化することはいうまでもありません。その結果、窃盗や詐欺グループへの参加などの犯罪に手を染めてしまうこともあるかもしれません。
冒頭でも述べた通り、外国人労働者の数は今後も増えていくと考えられています。それを踏まえると、国内での日本人と外国人の生活格差が、増加に伴って広がっていくとも考えられます。
格差、犯罪に手を染めてしまうということを減らすためには日本人との賃金の差をなくしていくことが求められるでしょう。
外国人犯罪の発生
警視庁によると、外国人犯罪は平成17年に約4万8000件でピークとなっていました。ですがその後は減少し、平成24年以降は1万4000件程度に下がっています。
外国人犯罪の具体的な内容は、窃盗、詐欺、薬物密輸、クレジットカードの不正利用、パスポートの偽造など、様々です。
中でも窃盗が多く、近年では、ベトナム人による集団万引きが見られました。これは、盗んだものを海外で転売するというケースです。実行犯は、技能実習生や留学生などの正規滞在者が多いです。SNSなどを通じて、軽い気持ちで参加する実行犯が増加しています。
犯罪に手染めるきっかけは貧困などの生活環境。どうしてもお金が必要で、犯罪に手を染めてしまうケースが多いです。これを解決するためには、外国人の日本での生活環境、受け入れ態勢を改善することも必要でしょう。
労働環境の問題
賃金に関しては、前述した通りです。賃金以外の受け入れ態勢がまだまだ整っていないという現状があります。外国人労働者を雇用する場合、採用後のケアも求められます。なぜなら、「慣れない土地で生活しながら働かなければならない」という点が、日本人と違っているからです。
生活に慣れない、職場でなかなか心を開けない、コミュニケーションがうまく取れない、などによりストレスが溜まってしまい、最悪の場合は離職してしまうこともありえます。
また、職場の「3K(きつい、危険、汚い)」も改善されるべき労働環境です。この3Kを嫌う日本人がその職場からだんだん離れていき、その埋め合わせとして外国人労働者が雇用されている現状があります。
このように労働環境に関しては、賃金以外にも、3Kの改善や生活・精神面でのケアも重要となってきます。
コミュニケーションの問題
コミュニケーションの問題は主に、外国人労働者の育成に影響しています。
株式会社スタディストが行った調査の「外国人労働者の育成において苦労したことをお答えください」という問いに関して多く寄せられた回答は、「コミュニケーションが取りづらかった」「口頭での指示が正しく伝わらなかった」の2項目でした。
現場で活躍してもらうためにはまず、育成が不可欠です。その育成には意思疎通が欠かせません。その際に、言語の壁が受け入れ企業にとっての課題となります。
この課題に関して同調査では、「動画や画像を用いたマニュアル」「外国語のマニュアル」などの教育環境の整備で対応を図っています。
労働そのものに対する理解の差
言語のみならず、労働そのものに対する理解の差もあります。外国人労働者側も日本の企業の風習に対して疑問・不満を抱く場合があります。
例えば、就労時間に関して。日本の企業では「9時〜17時」などの決まった時間、いわゆる定時まで働くのが当たり前となっています。仕事が残っていれば残業します。
しかし、外国人は時間内に仕事を終えることが当たり前とされていることが多いです。
このように、日本人と外国人との間で労働そのものに対する意識の差が生まれることがあります。
外国人労働者に関する今後の策
「平成27年度外国人労働者問題啓発月間実施要領」によると、厚生労働省は外国人労働者問題について、以下のように考えています。
・雇用が不安定
・社会保険の未加入が多い
・不法就労者数が高水準で推移している
厚生労働省はこういった状況を踏まえ、以下のような取り組みを行っています。
・雇用管理の改善及び再就職の促進
・専門的・技術的分野の就業促進
・適正な雇用・労働条件の確保
また、雇用者としては「なぜ外国人労働者を採用するのか」を明確にする必要があります。この際に、「安価な労働力ではないこと」「在留資格の管理があること」などを理解することで、不当な労働は未然に防ぐことができるはずです。
まとめ
今回は、外国人労働者の受け入れ問題について解説しました。
問題は主に
・悪質な雇用
・低賃金
・ケア不足
・劣悪な労働環境
・外国人犯罪
の以上になります。
これらを解決するには
・外国人とその国の文化への理解
・雇用主による理解
・労働環境の改善
・企業の受け入れ態勢の調整
が求められます。
今後、人口減少などが進んでいく日本でも各企業が活動を続けるためには、外国人労働者の力が必要になってきます。しっかりと現状を把握し、受け入れ態勢を整えた上で、外国人労働者を受け入れるようにしていきましょう。