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【外国人労働者の労災】対応方法・対策方法・労災保険を解説

【背景】 外国人労働者の死傷者数は増えている

令和2年度までの厚生労働省の発表資料によると、
日本国内で働く外国人労働者の数は年々増え続けています。
これに伴い、外国人労働者の死傷者数も年々増え続けており、令和2年度には過去最多の
4,682人へと増加しています。

これ以上、死傷者数を増やさないことが望まれることは言うまでもありません。
しかし、職種によっては危険と隣り合わせの環境で働くことがあり、100%避けることは難しいと考えられます。

したがって事業者の方々が、
受け入れている外国人労働者がケガ・病気にあってしまったときに対応できる力が求められます。
ぜひ、この記事を読んで
スムーズに対応できるようにしておきましょう!

労災が起こったときの対応とは

あなたが受け入れた外国人労働者が労働災害にあってしまったとき、
どのような対応をすればいいのでしょうか?
対応方法をチェックしていきましょう。

1. まずは病院で治療

労災が発生したとき、まずはすぐに
労災指定病院などで治療をしてもらいましょう。

治療費は全額、労災保険から支払われます。健康保険は使えません。

病院へ行く際は、外国人労働者本人だけではなく
受入れ企業の日本人職員が付き添ってあげることが望ましいです。

外国人労働者は日本語でのコミュニケーションが完璧である保証はありません。
日本人職員が付き添い、
・ケガや病気が労災によるものであること
・労災発生時の状況説明、症状などについて、正しく医師に説明する
などのサポートが必要です。

もしケガや病気の症状についての伝達ミスがあった場合、
間違った診断や不十分な治療につながる恐れがあります。
また、その後の労災保険の手続きなどに支障が出る可能性があります。
必ず日本人職員がサポートしてあげるようにしましょう。

2. 労災手続き

以下の2種類の手続きを行います。

労働者死傷病報告

労働者の死傷病を最寄りの労働基準監督署に報告します。
「報告するorしない」の判断基準は以下の2点です。
・労働者が労災により休業する日数が4日以上である場合
・亡くなってしまった場合

上記2点に当てはまる場合はできるだけ早く(1~2週間程度)、最寄りの労働基準監督署に報告します。
4日未満の場合は3か月ごとにまとめて報告します。

労働者死傷病報告は、書類の提出によって行います。
2021年11月現在、外国人労働者の場合は以下のページからオンラインで提出することができます。
【厚生労働省 『労働者死傷病報告(休業4日以上)』】

労災保険の給付申請

労災によってケガをしたとき・病気になったとき、保険給付を受けることができます。
保険の種類は複数あり、後の『労災保険について』にて詳しく解説します。

【注意】 「労災隠し」は犯罪です!

労働者死傷病報告を怠ると「労災隠し」とみなされ刑事罰が課される可能性があります。
一部の企業は取引先などからの信用を落とさないために、労災をなかったことにしようとして労災隠しを行うことがあります。
特に外国人労働者の場合、労災手続きについて知らないのを良いことに労災をなかったことにし、治療費を外国人に負担させたり休業補償を十分に支払わなかったりする行為が問題になっています。
労災隠しは犯罪であり、
発覚すれば、労働安全衛生法違反で50万円以下の罰金が科されることになります。
事業者の方々は労働者死傷病報告を必ず行い、法令遵守に努めましょう。

受入れ企業のサポートが必要

労災保険の給付申請などは、実際は企業が代行して行うことが多いですが、
本来は被災した労働者やその遺族が行うこととされています。

そんな中、外国人労働者は
労災手続きそのものを知らない、手続きを自分で行うことができない場合があるため、
受入れ企業側のサポートが必要です。
請求書を代わりに作成する、労働基準監督署へ同行するなど、
外国人労働者が正当な補償を受けられるようにサポートしてあげましょう
外国人労働者の中には、ケガや病気にあっても
「治療費が高いのでは」「住み慣れない地域の病院へ行くのが不安」
と考えてしまい、我慢してしまう・自分から隠してしまう方もいます。

受入れ企業の方々は、受入れ時に労災保険について事前にしっかり説明し、普段から健康状態に気を配ってあげることが大切です。

労災を防ぐために、4つの「やるべきこと」

労災を起こさないための取り組みには、どのようなものがあるでしょうか?
外国人労働者の労災を予防する上で意識すべきことは、
『外国人に特有の問題を理解し適切な対策を行うこと』
です。
この意識をもとに、労災を予防するための具体的な取り組みを4つ紹介します。

大切なことは母国語で教育

安全衛生教育などの実施において、外国人労働者の場合は、
・外国人の母国語での指導
・日本語と母国語を併記したテキストの活用
などの取り組みによって、学習内容を十分に理解しやすくするという手段があります。

「とりあえず講習を受けてもらう」という作業的な教育は、労災防止につながりません。
「だいたいわかるだろう」と思って日本人と同じように指導する、
日本語のテキストを渡して「自分で勉強しておいてね」と自己責任にするなどの教育方法では、外国人労働者の方々は正しい安全意識を持つことができません。

外国人労働者が理解できる方法で安全衛生教育を実施し、学んだ内容を正しく理解しているかどうか適宜確認しながら指導を進めましょう。

厚生労働省のホームページでは外国人労働者向けに、様々な業務における安全衛生のポイントがまとめられたテキストと動画が11か国語で公開されています。
これらを積極的に活用し、外国人労働者に正しい安全意識を持ってもらうように努めましょう。

日本語習得のサポート

仕事現場での指示や安全標識を理解するには、やはり日本語教育が大切です。
特に日常会話ではあまり使わない専門用語、現場で何気なく使っている共通言語などを改めて教育し、それらの意味を正しく理解してもらいましょう。
具体的な策としては、
日本語と母国語やローマ字などを併記したテキストでマニュアルを作成するなど、
忘れたときに何度も確認できるようにしておくと、繰り返し確認し覚えやすくなります。
「日本語習得」から逆算し、効果的な策を試みましょう。

安全標識を複数言語にする

外国語が併記された安全標識を使用するのも労災予防として有効です。
下記のURLから外国語標示の例が見れますので、確認してみましょう。
【建設業労働災害防止協会『建災防統一安全標識一蘭』】

精神面への配慮

ストレスが溜まってしまう・それによる疲弊で集中力が低下するなど
精神面が原因で労災が起こることもあります。

外国人労働者は、慣れない場所で生活しているため、実習時間外でもストレスが溜まることがあります。
そのため、ケガや病気など身体的な健康状態だけでなく、精神面にも気を配るようにしてあげてください。
普段からのコミュニケーションで外国人労働者を孤立させないように努め、
職場に馴染めるよう配慮することが大切です。

過剰な長時間労働やパワハラなどは絶対にしてはいけません。
労働者のストレスを増大させ労災につながります。

労災保険について

概要

労災保険とは、労働者が
・労働による「業務災害」
・通勤による「通勤災害」
によって負傷、または疾病に罹患した場合に必要な保険給付を行う制度です。

◯ 業務災害
業務災害は、仕事が原因となって発生した災害・疾病のことです。
具体的には以下のような例が挙げられます。

・作業中に手を切った。
・残業が月90時間を超え、心筋梗塞で倒れた。
・木材加工作業中に、木屑が目に入った。
・建設現場の足場から落ち、足を骨折した。
・著しい騒音が発生している現場で実習していたら、難聴になった。

◯ 通勤災害
通勤災害は、通勤の途中において被った災害・疾病のことです。
具体的には以下のような例が挙げられます。

・自転車で通勤中、車とぶつかりケガをした。
・徒歩での通勤中、道路が凍結しており、転倒して負傷した

給付内容

この記事では、数ある給付の種類の中から以下の4種類を解説します。
・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・障害(補償)給付
・遺族(補償)給付

1. 療養(補償)給付

業務災害、または通勤災害による傷病の療養をするとき、療養給付又は療養の費用給付を受けることができます。

[1] 療養の給付
労災病院や指定医療機関・薬局等(以下「指定医療機関等」といいます。)において、
必要な療養(現物の給付)が受けられます。原則として治療費が無料になります。

[2] 療養の費用
指定医療機関等以外の病院等で療養した場合に、その療養に要した費用が支給されます。
原則として治療費用が戻ってきます。

2. 休業(補償)給付

療養のために労働することが出来ず、賃金を受けない期間が4日以上に渡った場合に、

[1] 休業4日目以降一日につき、「給付基礎日額」(※注)の60%相当額が支給されます。
(※業務災害の場合、最初の3日間については、事業主の補償義務あり。)

[2] 休業特別支給金が支給されます。
支給額は、上記の休業(補償)給付支給対象となる休業一日につき、「給付基礎日額」の20%相当の額です。
事業主の補償義務はありません。

したがって、休業4日目以降は、実質的には給付基礎日額の80%相当額が支給されます。

[※注] 「給付基礎日額」・・・原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
また平均賃金とは原則として、業務上または通勤による負傷や死亡の原因となった事故が発生した日、または医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは、その日の直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して払われた賃金の総額を、その期間の歴日数で割った一暦日あたりの賃金額です。

3. 障害(補償)給付

症状固定(これ以上の治療効果が期待できない状態)となり、障害が残った場合に、厚生労働省令で定める等級に応じ、障害(補償)年金又は障害(補償)一時金が支給されます。

[1] 障害(補償)年金
身体に当該障害等級1〜7級に該当する障害が残ったとき、その障害の程度に応じ、毎年 「給付基礎日額」の313日分(1級)〜131日分(7級)の年金が支給されます。
「算定基礎日額」とは原則として、被災日以前一年間にその労働者に支払われた「特別給与」(3か月を超える期間毎に支払われる賃金であり、臨時に支払われる賃金を除く)の総額(算定基礎年額)を365で除した金額です。

[2] 障害(補償)一時金
身体に当該障害等級8〜14級に該当する障害が残ったとき、その障害の程度に応じ、「給付基礎日額」の503日分(8級)〜56日分(14級)の一時金が支給されます。

[3] 障害特別年金
当該障害の程度が障害(補償)年金に該当する場合で、「特別給与」を受けていた労働者には、その障害の程度に応じ、「算定基礎日額」の313日分(1級)〜131日分(7級)の特別年金が支給される。

[4] 障害特別一時金
当該障害の程度が障害(補償)一時金に該当する場合で、「特別給与」を受けていた労働者には、その障害の程度に応じ、「算定基礎日額」の503日分(8級)〜56日分(14級)の特別一時金が支給されます。

[5] 障害特別支給金
当該障害の程度に応じ、342万円(1級)〜8万円(14級)の一時金が支給されます。

4. 遺族(補償)給付

労働者が業務上災害または通勤途上災害で死亡した場合は、遺族(補償)年金又は遺族(補償)一時金が支給されます。

[1] 遺族(補償)年金
業務災害または通勤災害により死亡したとき、年金を受けることができる遺族がいる場合に、その遺族の人数に応じ、「給付基礎日額」の245日〜153日分の年金が支給されます。

[2] 遺族(補償)一時金
遺族(補償)年金を受給する遺族がいない場合は「給付基礎日額」の1000日分、
また年金を受給していた遺族が失権した場合は、既に支給された金額が「給付基礎日額」1000日分に満たないときに、その差額が支給されます。

[3] 遺族特別年金
遺族(補償)年金を受給する場合、死亡した労働者が「特別給与」を受けていたときは、「算定基礎日額」の245日分〜153日分が遺族の数に応じて支給されます。

[4] 遺族特別一時金
遺族(補償)一時金を受給する場合、死亡した労働者が「特別給与」を受けていたときには、「算定基礎日額」の1000日分が一時金として支給されます。

[5] 遺族特別支給金
遺族(補償)給付の受給権者に対して、遺族の数にかかわらず一律300万円の一時金が支給されます。

まとめ

今回は、外国人労働者の労災について解説しました。
外国人労働者を受け入れる事業者の方々は
・労災が起こらないように努めること
・起こった場合にスムーズに対応できるようにしておくこと
が必要です。
前もって取り組んでおくようにしましょう!